b                          簿記の概念

簿記とは、事業活動を一定のルールに従って正確に記帳する事を言います。ところで簿記の構造はどのようになっていて、どのように記載すればいいのでしょうか。ここではその概念と記帳のルールのを説明します。










企業の会計はなぜ簿記なのでしょうか。
誰にでも使える家計簿(現金出納帳)でも、ある程度の事業実態を把握できますが、家計簿では現金の出入りや残高が分かるだけで利益までは算出してくれないからです。利益は売上高から材料費や経費を差引いて算出される「損益計算書」で表現されます。さらに事業の資産状況や負債の詳細を表す「貸借対照表」も要求されています。

このように事業活動に関係する全会計項目の出入や残高を管理する必要から複式簿記で記帳することが義務付けられているのです。そして決算内容を表す「貸借対照表」や「損益計算表」は簿記の各項目を集計するだけで作成してくれる手品のような管理方法なのです。

全ての項目をどのように管理するのか、もう少し説明します。イメージをつかんでください。

簿記の構造は”5個の箱”が積み重なっています。
事業活動に関係する会計項目を大別すると、
  1. 現金や預金、売掛金等の事業の資産明細をあらわす「資産
  2. 借入金や買掛金、未払金等の返済しなければならない「負債
  3. 株主から預かった資本金など事業の元金となっている「資本
  4. 人件費や接待交際費など事業を営むのに使われた[費用
  5. 売上高や雑収入など事業収入を表す「収益
の5個であらわされます。そして簿記の中身は、それぞれの残高を入れおく箱が下図のように積み重ねられていているとイメージしてください。(この箱の集まりを残高試算表と呼ぶ。
それぞれの箱の出入を管理し、箱の高さは残高によって変化しますがが、なぜか積み重ねられた右側の箱山と左側の箱山の高さは常に同じになります。(後で説明します。)
これらの箱の上部(資産、負債、資本)だけを切り離しのが「貸借対照表」となり、下部(費用、収益)だけを切り離したのが「損益計算書」になります。実際には左右の高さのバランスを取るために利益の箱を追加しています。勿論貸借対照表の利益と損益計算表の利益は同じサイズです。このように簿記の箱は、容易に集計できるようレイアウトされているのです。

そして積み重ねられた左側の箱山と右側の箱山には、次のような意味を持っていて、簿記の世界では左側の山を「借方」、右側の山を「貸方」と呼びます。
     お金の使い方
集めたお金の使い方を意味する項目の集まりで、商品や費用などがあります。
※現金や預金も集めたお金を金庫や銀行に保存(使い方)してあると解釈ください。
     お金の集め方
借入金や資本金、売上高などお金の集め方を意味する項目の集まりです。
※資本は、資本家から投資してもらい、お金を集めたものです。
借方 貸方
右の山が「お金の集め方」で左の山が「お金の使い方」なら左右の山は、当然同じ高さになり、簿記の貸方と借方の各合計も常に同額になることが理解できるでしょう。

簿記はイタリアで発明され、全世界に普及しました。日本ではなぜ「借方」「貸方」と名づけたかは不明です。「使い方」「集め方」とでも翻訳してくれればもう少し理解しやすかったのでは・・・。


「つぶやき」
なぜ左側の山を「借方」、右側の山を「貸方」と呼ぶのでしょうか。借方に属する勘定科目には「貸付金」や「事業主貸」など貸を意味する科目が多く、貸方にも「借入金」や「買掛金」など借を意味する科目があって、意味づけから覚えようとすると逆になってしまいます。日本に簿記が上陸したときに間違えて逆に訳してしまったのではないでしょうか。むしろ右側や左側と記憶したほうがよいようです。

今回の新・会社法で500年も続いた複式簿記の「資本」区分名を「純資産」と呼び変えています。確かに「資産」から「負債」を差し引いたものが「純資産」で、意味が分かりますが、なぜいま変えたのでしょう。会計の普遍的原理と思われていた「資産・負債・資本」の呼び名をこれからは「資産・負債・純資産」と呼ぶのでしょうか。今まで発行された簿記の本も全て読み替えることは、ただでさえややこしい簿記に追い討ちを掛けるようなことになります。この問題は一歩譲っても、どうせ長い歴史を変えるのならば、「貸方」「借方」こそ一緒に変えるべきだったと悔やまれます。「使い方」「集め方」と変えていれば後世の人もどれほど助かったことか・・・・・・
以上が、簿記を構成している中身です。簿記を理解するうえで、この5つの箱のイメージが基本となっていています。記帳するときなどは、常にこのイメージを浮かべてください。
続いて、事業に関係する全項目をどのように管理するかを具体的に説明します。
まづ、大別された箱の出入管理について、具体的な取引の例を元にして説明します。ぜひご一緒に検討ください。
ここでは、出入り管理の仕組みについて理解しやすいように、取引例を5つあげました。例に沿って管理方法を具体的に説明します。
@、現金300万円を資本に事業を開始した(現金増加/資本増加)
A、商品である靴を5足(@3千円)仕入れた(商品増加/現金減少)
B、事務所の家賃(10万円)を現金で支払った(費用増加/現金減少)
C、商品の靴を1足(@8千円)売った(商品減少/現金増加)
D、商品の靴を3足を掛けで仕入れた(商品減少/買掛金増加)
物を買った場合に現金が減り、物がが増えるように、全ての取引には何かの項目が増減すれば、必ずもう1つ別(又は1つ以上)の項目も増減していて、取引には損得がありません。

説明は、簿記の発展過程に沿って「ステップ1」、「ステップ2」、「ステップ3」の順に説明します。


「ステップ1」・・・・・上記取引を5個の箱に区分して、出入と残高を管理をしました。
@〜Dの取引を各箱の出納帳で出入りを管理し、残高を見ると以下のようになっています。
  資産の残高は・・・・ 2,917,000円
  負債の残高は・・・・      9,000円
  資本の残高は・・・・ 3,000,000円
  経費の残高は・・・・   100,000円
  収入の残高は・・・・      8,000円
そして、以下の通り、右側の箱山と左側の箱山の残高は、常に同じになります。
  ○、左山→資産+経費=3,017,000円、 右山→負債+資本+収入=3,017,000円

利益の算出は、箱の上部だけを切り離した貸借対照表と下の部分だけを切り離した損益計算書で算出され、利益額は同額になっています。
  ○、貸借対照表の利益→ 資産の残高−負債の残高−資本の残高=▲92,000円
  ○、損益計算書の利益→ 収入の残高−経費の残高=▲92,000円

  


これが簿記の概念です。ただしこの方法には、次の2つの問題点が残っています。
1、これでは資産残高(2,917,000円)の明細が分かりません。
2、各箱の出入を管理する出納帳が多くなり、大変な記帳作業になる。


「ステップ2」・・・・・・1、の問題(明細が分からない)の解決方法
1の問題を解決するために大分類した「資産」「負債」「資本」「費用」「収益」の各箱を、さらに詳細分類した箱を設置し、内容がわかる名前をつけました。そして、この詳細分類した箱別(名前別)に出入りを管理します。以下に一般的な分類名を連記しました。
 ※この分類名を簿記では「勘定科目」と呼び、さらに詳細区分のために補助科目をつける場合もあります。
 ※分類する数は事業の内容や大きさによって違い、小規模事業の一般的科目数は40個前後あります。
  資本の部
(流動資産)
現  金 預  金
買掛金 商品製品
原材料 貸付
(固定資産)
建  物 建物付属装置
車両運搬具 器具備品
無形固定資産 投資等
  負債の部
買掛金 借入金
未払金 預り金
  資本の部
資本金 利益準備金
別途積立金 未処分利益
  収入の部

売上高
雑収入

  経費の部
人件費 接待交際費
会議費 旅費交通費
広告宣伝費 公租公課
・・・・・・・・・
地代家賃 消耗品費
雑  費 減価償却費


「ステップ3」・・・・・・2、の問題(出納帳では記帳が面倒)解決方法
しかし、大分類を勘定科目の小箱で分類すると、各勘定科目の数だけ出入りを管理する必要となり、勘定科目の数だけ出納帳が必要となってしまいます。これでは出納帳の数が多すぎ、実際の管理が不可能となります。そこで全ての勘定科目を1つの伝票に記載する「仕訳伝票」と呼ぶ、便利な伝票が考え出されたのです。

この伝票は、左側に借方欄、右側に貸方欄を設け、借方勘定科目を借方側(左)に、貸方勘定科目を貸方側(右)に記載する複式記載の伝票が発明されました。そして最初のころは、増加する場合はプラス、減少する場合はマイナス符号を付けて記載しました。


上記した取引例を仕訳伝票に記載すると次のようになります。

借方 備考 貸方
勘定科目 金額 金額 勘定科目
@  現金 +3,000,000  資本(事業開始) +3,000,000  資本金
A  商品 +15,000  靴を5足(@3千円)仕入    
 現金 −15,000    
B  家賃 +100,000  事務所の家賃
 (10万円)の支払
   
 現金 −100,000    
C  現金 +8,000  靴を1足売上 +8,000  売上高
D  商品 +9,000  靴を3足を掛けで仕入 +9,000  買掛金
この表も、やはり左右の金額を集計すると 3,017,000円となり同額です。ただし、先ほどの「5つの箱」では、取引の都度、箱に出し入したので残高集計も簡単でしたが、仕訳伝票では金額に名前(勘定科目名)を付けただけで、ランダムに入力されています。このため勘定科目別の金額集計には、まず各科目に分類してから残高を集計する面倒さが伴います。しかし面倒なのは貴方ではなくパソコンです。幸いなことに分類集計はパソコンの得意技で、1000個程度の分類集計は一瞬に算出してくれます。
ところでマイナス金額は、ときおり転記ミスや集計ミスを誘発し、会計管理にはそぐわないとされて、以下のような原則を導入されました。(このことが簿記をややこしくしている原因ですが、逆にすばらしい手法です。)
借方勘定科目が増加する場合は借方側に記載する。ただし減少する
場合はマイナス符号を付ける代わりに反対側の貸方側に記載する。
貸方勘定科目が増加する場合は貸方側に記載する。ただし減少する
場合はマイナス符号を付ける代わりに反対側の借方側に記載する。
※現金勘定科目が増加するとは、例えば「現金売上で現金を受け取った場合」で、
  現金勘定科目が減少するとは、「現金で何かを買った場合」などを指しています。

※勘定科目の出入や残高を集計時する場合に、その勘定科目が所属する側の金額をプラス、
  反対側をマイナスとして集計すえば間違いなく処理され、コンピュータは瞬時に集計します。


以上の約束事によって仕訳伝票は、以下の様に+や−の符号がなくなり、すっきりと簡素化されました。そして全ての勘定科目別の増減や残高を管理することが出来るようになったのです。

借方 備考 貸方
勘定科目 金額 金額 勘定科目
@  現金 3,000,000  資本(事業開始) 3,000,000  資本金
A  商品 15,000  靴を5足仕入 15,000  現金
B  家賃 100,000  事務所の家賃の支払 100,000  現金
C  現金 8,000  靴を1足売上 8,000  売上高
D  商品 9,000  靴を3足を掛けで仕入 9,000  買掛金

「つぶやき」
本当にそうなのでしょうか。伝票に鉛筆で記載していた時代は、確かに+と−を読み違えて転記ミスや集計ミスを誘発したのかもしれません。しかしこれほどパソコンが普及した時代に鉛筆で伝票記載したり、伝票を見ながら転記や集計する人などは、もういないはずです。パソコンの画面で伝票記帳するのであれば、+/−を入力間違いすることも無く、たとえ間違えても伝票登録時に貸借が同じであるかのチェックがなされ、誤り入力などできなくなっています。そして記帳した伝票の集計や転記は、だいぶ以前からパソコンが担当し、人間のような間違いは発生しないのです。また+/−符号が無くなり「すっきりと簡素化されました。」なども人間の感じ方をさしていて、パソコンにはそんな感情など持ち合えあせていません。だとすると【ステップ2】のほうが簡単で、簿記をややこしくした最大の法則も不要になります。ためしにマイナスを入力できる市販の会計ソフトであればマイナスを使ったほうがどれほど簡単な記帳になるかを試してみてください。

今にこのような簡単記帳できる会計ソフトが出現することでしょう。そうすれば勘定科目の借方/貸方入力ミスもソフトでチェックすることが可能になり、もっと簿記が身近なものになるはずです。
まとめ
これが簿記の概念です。これで貴方も複式簿記の「仕訳伝票」に記帳することが出来るはずです。ぜひ以下の考え方(イメージ)を頭に入れて、簿記にチャレンジしてください。

財務諸表の作成も、勘定科目を分類集計し、一定の法則で一覧表示するこてで作成することができます。そして、この分類集計の処理は、パソコンの会計ソフトが担当し、記帳する担当者は借方と貸方を間違わないように記帳すればよいこととなったのです。これらの概要を以下にまとめてみました。
  1. 簿記は決められた配列で5つの箱が積重なった構造になっていて、各箱には勘定科目名を付けた小箱が準備されている。
  2. 取引の管理は、仕訳伝票でその都度定められた方法で貸借に分類して記帳し、必要なときに勘定科目別の小箱に分類集計し、貸借対照表や損益計算書等を作成する。
  3. 定められた方法とは、借方勘定科目が増加する場合は借方側(減少は借方側)に記載し、貸方勘定科目が増加する場合は貸方側(減少は借方側)に記載する。

以上の事から会計に使用されている各勘定科目が借方/貸方のどちらに属するかさえ記憶してしまえば、複式簿記の仕訳伝票を記帳することは、それほど難しくない事が理解されたはずです。ここで各勘定科目が借方/貸方のどちらに属するかを記憶する手助けとして、もう一度分類の意味を記載しておきます。

借方

貸方
お金の使い道 お金の集め方
集めたお金の使い方を意味する項目の集まりで、資産や費用などがあります。
※現金や預金も使い道(保存した)
借入金(負債)や資本金(資本)、売上高(収入)などお金の集め方を意味する項目の集まりです。
簿記の世界でも、お金を捨てたり泥棒することは、認められていません。
資産の部
現金 銀行預金 受取手形 売掛金
貸倒引当金 有価証券 商品・製品 原材料
前払金 未収金 貸付金 立替金
仮払金 事業主貸
建物 建物付属設備    構築物 機械装置
車両運搬具 工具器具備品
減価償却累計額
無形固定資産   投資等 繰越資産
負債の部
支払手形 買掛金 短期借入金
前受金 未払金 預り金
未払法人税等 長期借入金


資本の部
資本金 資本剰余金 利益準備金
別途積立金 未処分損益
費用の部
商品仕入高
役員報酬 給与手当 賞与 法定福利費
福利厚生費 通勤費 荷造運賃手数料
広告宣伝費 交通費 通信費 接待交際費
会議費 販売促進費 支払手数料 図書費
水道光熱費 車両費 地代家賃 保険料
消耗品費 事務用品費 寄附金 諸会費
リース代 雑費 雑損失 法人税等
収益の部
売上高
受取利息 受取配当金 雑収入








仕訳伝票の記帳練習
ここでは仕訳の概念を身に着けてもらうために、仕訳伝票を使って記帳の練習をしてみましょう。次の会計処理を実際に仕訳してみてください。問題をクリックすると仕訳の解説と記帳した仕訳伝票が表示されます。

1.ボールペン(100円)を買った。
【開設】現金(資産)が減少して事務消耗品(経費)が増加した。
借  方 貸  方
100  事務消耗品費  現金 100
2.パン屋さんがパン(525円)を現金で売った。
【開設】現金(資産)が増加して売上高(収入)が増加した。
借  方 貸  方
525  現金  売上高 525
3.パン屋さんが材料の麦粉(5,250円)を掛けで仕入れた。
【開設】商品仕入高(費用)が増加して、買掛金(負債)が増加した。
借  方 貸  方
5,250  商品仕入高  買掛金 5,250
4.パン屋さんがデパートにパン(10,500円)を掛けで売り上げた。
【開設】売掛金(資産)が増加して売上高(収益)が増加した。
借  方 貸  方
10,500  売掛金  売上高 10,500
5.レーザープリンター(73,500円)を購入し、掛けにしてもらった。
【開設】消耗品費(資産)が増加して未払金(負債)が増加した。
借  方 貸  方
73,500  消耗品費  未払金 73,500
6.売掛金(21,000円)が銀行振り込みで入金された。
【開設】銀行預金(資産)が増加して売掛金(資産)が減少した。
借  方 貸  方
21,000  銀行預金  売掛金 21,000
7.レーザープリンタ代の未払金(73,500円)を銀行振り込みで支払った。
【開設】未払金(負債)が減少して銀行預金(資産)が減少した。
借  方 貸  方
73,500  未払金  銀行預金 73,500
8.パン屋さんは、原料の小麦粉が値上がりしたので100円のパンを110円に値上げした。
【開設】この行為は、勘定科目の増減が伴わないので会計処理の必要ありません。
借  方 貸  方
       
9.事務所の金庫に現金が多くなり、盗難予防に20万円を銀行に預け入れた。
【開設】銀行預金(資産)増加し、現金が減少した。
借  方 貸  方
200,000   銀行預金  現金 200,000 
10.金庫にお金が少なくなったので、銀行から10万円引きおろした。
【開設】現金(資産)が増加し、銀行預金(資産)が減少した。。
借  方 貸  方
100,000   現金  銀行預金 100,000 
11.社員に1か月分の給与(27万円)を現金で支給した。このとき所得税(22,500円)と住民税                (10、240円)を給与から天引きした。
【開設】給与手当(費用)が増加し、現金(資産)が減少した。このとき同時に所得税と住民税の預り金が増加した。
※この会計処理は、1度に4個の勘定科目が変動しました。
※所得税や住民税は給与から天引きし、一旦会社が預かって後日納税します。
借  方 貸  方
270,000   給与手当  現金 237,250 
 預り金 22,500
 預り金 10,250
12.売掛金(123,000円)が銀行振込で入金された。そのときの振込手数料(310円)は当社負担です。
【開設】売掛金(資産)が減少し、銀行預金(資産)と支払手数料(費用)が増加した。
借  方 貸  方
122,690  銀行預金  売掛金 123,000
310  支払手数料    


少し複雑な例で、手間取ったかもしれませんが、仕訳の原則に照らし合わせれば理解できると思います。これで簿記の概念と記帳のルールについての説明は終わりです。もう「会計を知らずに経営をするな」などと、ののしられることはありません。そして早く会計の自立を目指し、すばらしい経営の舵を取ってください。
Last Updated : 2006.8.15